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2023/08/28 iPS細胞

潜熱蓄熱材の調温とはいったい何なのか?なぜ重要なのか?

再生医療の進展において、細胞の輸送は重要な要素となっています。細胞の輸送方法には従来の凍結輸送に加えて、凍結させずに常温で輸送する「常温輸送」が注目されています。常温輸送には蓄熱材が必要であり、その中でも潜熱蓄熱材(PCM)が有効です。

潜熱蓄熱材は熱源を必要とせず、コンパクトで安全かつ経済的な常温輸送を実現できます。しかし、細胞の種類や目的によって適切な温度帯が異なります。細胞の輸送には「調温」も重要であり、正しい調温を行うことで潜熱蓄熱材の性能を最大限に引き出すことができます。

サンプラテックのiP-TEC🄬では、潜熱蓄熱材や潜熱蓄熱材の調温の手間を簡単にする便利な恒温器を提供しています。
当記事では、潜熱蓄熱材の調温とその重要性について解説します。

1.細胞の常温輸送には蓄熱材が欠かせない

近年の再生医療実現に向けた取り組みの中で、治療用の細胞を輸送する工程が重要であることが認識されています。輸送方法についても従来の凍結輸送に加えて、凍結させない輸送の必要性も議論されるようになってきています。この凍結させない輸送方法は、「常温輸送」や「非凍結輸送」あるいは「ライブ輸送」などと呼ばれていますが、ここでは常温輸送と呼びます。

常温輸送には熱源として通常、「蓄熱材」が使用されるケースがほとんどです。恒温器のような装置では電気部品が必要となり輸送に適さない上に、輸送車自体にそのような恒温機能を持たせたとしても非常にコストが高く、しいては輸送コストに影響するためです。
そこで、熱源を必要とせずかつ軽量である「蓄熱材」が有効になります。蓄熱材は正しくは「潜熱蓄熱材」と呼ばれ、略称として英語の頭文字を取って「PCM」と呼ばれることもあります。潜熱蓄熱材を熱源として用いることで、コンパクトで安全に、そして安価に常温輸送が可能になります。

また、細胞の種類や目的によって輸送中の最適な温度は変わります。大きく分けて3つの温度帯があり、冷温帯、室温帯、培養温度帯です。温度帯の概念は規格や業界団体によって異なりますが、ここでいう冷温帯は2~8℃、室温帯は15~25℃、培養温度帯は33~37℃をイメージしています。

潜熱蓄熱材は多くの温度帯のものがすでに市場に出回っており、材料や組成を変えることでさまざまな温度帯を実現できます。ただし、培養温度帯を維持できる潜熱蓄熱材は多くなく、また温度維持性能も各製品で品質が異なり、特に細胞の常温輸送においてはより温度維持性能を発揮する潜熱蓄熱材を選ぶことが重要です。

2.潜熱蓄熱材とは

潜熱蓄熱材とは、物質が「相変化」するときに発生する「潜熱」を利用する熱源です。相変化は、水が氷や水蒸気へと変わるように、物質の状態(固体・液体・気体)が変化することを指します。

物質が相変化するときは、多くの熱エネルギーが必要です。相変化の際に物質が周囲の熱を吸収したり、反対に物質が熱を放出したりします。相変化によって吸収・放出される熱が「潜熱」です。

例を挙げると、氷が水へと相変化するときは、0℃の氷が周囲の熱を吸収するため、周囲にある物質を保冷する効果が生まれます。水蒸気が水へと相変化するときは、100℃の水蒸気が熱を放出して、周囲にある物質を保温する効果が生まれます。

上記のように、物質の相変化によって生まれる潜熱には、周囲にある別の物質を保冷もしくは保温する効果があります。熱源のメカニズムとして、潜熱の保冷・保温効果を利用したものが「潜熱蓄熱材」です。

◆潜熱蓄熱材の活用事例

潜熱蓄熱材の活用事例を2つ紹介します。

・建築分野で活用される潜熱蓄熱材

建築分野では、室温に近い温度で相変化が起きる潜熱蓄熱材を、ボード・シート形状に加工した建材が活用されています。冬期に日射熱を蓄熱したり、夏期に夜間の冷気を蓄冷したりすることにより、省エネにつなげられるという仕組みです。

・常温輸送用の潜熱蓄熱材

細胞の常温輸送を可能とするために、特定の温度設定を保つことを目的とした潜熱蓄熱材です。容器形状といった仕様が輸送に適したものとなっており、適切な環境下で狭い温度帯を長時間維持する性能に優れています。

身近なものでは、クーラーボックスに入れる保冷剤も潜熱蓄熱材であると言えます。

◆一般的な潜熱蓄熱材の材料

一般的な潜熱蓄熱材の材料は、下記の3つです。

・酢酸ナトリウム三水和物

酢酸ナトリウム三水和物の融点は約58℃であり、カイロや暖房用の熱源素材に使用されています。

・硫酸ナトリウム十水和物

硫酸ナトリウム十水和物の融点は約32℃であり、主に床暖房などの建材用途で使用されています。

・ノルマルパラフィン

ノルマルパラフィンは炭素数によって融点が異なり、任意の融点に調整できる点が特徴です。主に常温輸送用の熱源として使用されています。

3.潜熱蓄熱材を正しく使うための「調温」

ここでいう「調温」とは「潜熱蓄熱材の性能を正しく発揮させるための準備」のことです。具体的には、室温で固体或いは液体の潜熱蓄熱材を完全に、固体→液体、液体→固体に変化させた上で、目的の温度帯を維持できるように一定時間温度環境に晒すことです。

固体から液体、液体から固体に変化することを相変化と言い、相変化の過程で一定の温度が維持されます。例えば36℃仕様の蓄熱材であれば、融点は36℃であり室温では固体です。

恒温器などを用いて融点以上の環境温度で固体から液体に完全に変化させ、恒温器から取り出した後、液体から固体に相変化するタイミングで真空断熱材仕様の保温ボックスなどに入れて細胞が収容された容器も併せて入れます。この状態で輸送することでボックス内の温度が維持されます。

潜熱蓄熱材の調温のポイントとしては、下記の3つがあります。

  • (1)各温度帯の潜熱蓄熱材によって室温状態で固体なのか液体なのか
  • (2)何度の環境温度に晒すと効率が良いのか
  • (3)恒温器などから取り出して、どのタイミングで使用するのが良いのか

(1)については室温状態で固体であれば恒温器などで「温める」必要があります。液体であれば「冷やす」必要があります。

(2)については潜熱蓄熱材の使用までの時間を考慮する必要があります。早く使用したい場合は、融点よりもできるだけ温度を上げたり下げたりして調温しますが、そういうわけにもいきません。潜熱蓄熱材の入った容器材質の耐熱耐冷性、融点よりも乖離した温度で調温すると、恒温器から取り出し後の融点に近づくまでの時間なども調整しなければ効率が悪くなります。

(3)については蓄熱材の表面温度を都度計測しながら目的温度に近づいた段階で使用することで間違いありませんが、それでは手間が掛かり、特に使用する潜熱蓄熱材の枚数が多ければ運用するのは難しいです。この調温がうまくできなければ、潜熱蓄熱材の性能を発揮させることができず、しいては輸送中の温度維持も難しくなり、細胞の常温輸送はままなりません。
各社様々なタイプの潜熱蓄熱材が市販されていますが、それぞれ最適な調温方法は異なります。使用する側にとって、調温についてしっかりとした調温マニュアルが完備されている商品を選ぶことが重要です。

iP-TEC潜熱蓄熱材+36NS マニュアル

iP-TEC潜熱蓄熱材-24 マニュアル

iP-TEC潜熱蓄熱材-17 マニュアル

iP-TEC潜熱蓄熱材-5 マニュアル

4.「調温」を簡単にするための便利な機器

細胞の常温輸送にとって潜熱蓄熱材や潜熱蓄熱材の調温は重要です。しかし、使用するまでの手間が掛かるのも事実です。

そこで、サンプラテックのiP-TEC🄬では、その手間を解決できる便利な恒温器を提供しています。これまでの細胞の常温輸送の経験を踏まえた各温度帯における潜熱蓄熱材にとって最適な温度条件を、容器材質や使用までの時間を考慮した上で、あらかじめ調温時間がプログラムされた恒温器です。
手間が省けるのはもちろん、だれが調温しても同じ状態の潜熱蓄熱材を準備することが可能になり、作業の標準化にも役立ちます。

まとめ

細胞の常温輸送には蓄熱材が必要であり、潜熱蓄熱材(PCM)が効果的です。常温輸送は凍結させない方法であり、潜熱蓄熱材を使用することでコンパクトで安全かつ経済的な輸送が可能です。

「調温」は潜熱蓄熱材の性能を最大限に引き出すための準備作業です。固体から液体や液体から固体への相変化を行い、目的の温度帯を維持します。調温には潜熱蓄熱材の状態、適切な環境温度、使用タイミングなどを考慮しましょう。

サンプラテックのiP-TEC🄬では恒温器を提供しており、細胞の常温輸送に役立ちます。事前にプログラムされた最適な調温時間や温度条件を提供し、作業効率や標準化に貢献します。調温作業の手間を省けるため、効果的な輸送を実現できます。