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2023/12/07 再生医療

再生医療の実用化を可能にするmyiPS®️

再生医療を広く普及させるには、再生医療の産業化が必要です。しかし、再生医療の実用化を進めるにあたってはさまざまな課題があり、iPS細胞の製造・培養にかかるコストの削減が求められます。

当記事では、再生医療を実現するにあたっての課題や費用面を含めた課題を解決し、自家iPS細胞を用いた再生医療を一般化する公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団の「myiPS🄬」プロジェクトの概要と、目的達成に必要なことを解説します。さらに、myiPS🄬とiP-TEC🄬の取り組みも紹介します。

1.再生医療の実現に向けた課題

細胞から人体の組織や臓器を再生させる「再生医療」の研究は、世界中でも日本がトップクラスで進んでいます。

京都大学の山中教授のiPS細胞がノーベル賞を受賞したことを皮切りに、2014年には再生医療等安全性確保法や再生医療等製品の先駆け審査指定制度など、再生医療の臨床研究や事業化に向けた体制が整えられました。
また、世界で初めてiPS細胞を用いて当時の理化学研究所の髙橋政代先生による加齢黄斑変性の治療を行うなど、以降もさまざまな臨床試験が行われてきています。

保険適用できる再生医療等製品も登場しており、再生医療技術への注目度は高まっている状況です。一方で産業化スピードは上がらず多くの課題を抱えています。

再生医療の実現に向けた課題は、主に下記の3点です。

●再生医療等製品の製造コストが高い

細胞を体外で培養するには、培地や成長因子のタンパク質が大量に必要です。さらに再生医療等製品を製造する際は、細胞の採取・培養・加工・輸送といった工程を患者様一人ひとりに合わせて行います。結果として製造コストが高くなる点が課題です。

●材料供給や製造設備、輸送体制の整備が必要となる

再生医療等製品を製造するには、培地・成長因子といった材料の供給や、細胞を培養する設備、輸送する体制を整備しなければなりません。日本においても再生医療に関するサプライチェーンの構築は十分にできておらず、再生医療の普及における大きな課題となっています。

●医師・医療機関の技量に医療の結果が大きく左右される

再生医療で用いられる再生医療等製品は、従来の化合物医薬品と比べて、医療を提供する医師・医療機関の技量による影響を受けやすい特徴があります。使用する細胞の安全性や分化誘導・細胞移植の技術などにより、医療の結果が大きく左右される点が課題です。

再生医療を実現するには、紹介した3つの課題を解決することが急務と言えます。

これらの課題を解決するため、国や業界団体、企業の努力によりさまざまな取り組みが行われています。

出典:POLICY DOOR ~研究と政策と社会をつなぐメディア~「再生医療、コストの壁をどう破る」

2.myiPS🄬とは何か

myiPS🄬とは、患者様自身のiPS細胞を用いた「自家iPS細胞」による再生医療を推進するために、公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団(CiRAF)がスタートしたプロジェクトです。

そもそもiPS細胞とは、人間の皮膚や血液などの体細胞に山中因子とよばれる特定の遺伝子を導入し培養することで得られ、多様な細胞に分化する能力と無限に近い増殖能力をもつ、人工多能性幹細胞のことです。
iPS細胞は原料となる細胞の採取が比較的容易で、医療応用しやすいメリットがあります。さらに、自家iPS細胞であれば細胞の提供者を探す必要がなく、自家移植するため拒絶反応のリスクも抑えられます。

ただ、自家iPS細胞の作成には多大なコストがかかります。高額な設備の導入やその維持費、培養工程における人件費などが主な理由です。患者様に届けられる費用が何千万円にもなると、患者様の治療を可能にする細胞作製技術があっても普及することが難しくなります。したがって、自家iPS細胞を用いた再生医療にかかる医療費を削減し、自家iPS細胞による再生医療の普及を実現することが、myiPS🄬の目的です。

出典:公益財団法人 京都大学iPS細胞研究財団「my iPSプロジェクト」

出典:京都大学 iPS細胞研究所「キヤノン、キヤノンメディカルシステムズと京都大学iPS細胞研究所が高品質な自己由来iPS細胞の実現に向けた共同研究を開始」

3.myiPS🄬の目的を達成するために必要なこと

myiPS🄬の目的を達成するためには、自家iPS細胞自体の培養・製造にかかるコストを大幅に削減することが不可欠です。

製造コストの課題解決策としては、主に2つの方法があります。

(1)可能な限り手技に頼らない培養手法の確立

従来の培養技術では、専門的な技術をもった技術者により、コンタミに注意しながら培養装置を操作する必要がありました。培養装置の操作に高度な知識・熟練が求められる点が、高額な人件費につながり、治療コスト増大の一因となっています。

培地の交換などが行いやすい機材を開発することで、可能な限り手技に頼らない培養手法が確立でき、人件費を抑えられます。

(2)自家iPS細胞の培養や細胞製品の製造を比較的安価に行えるシステムの導入

自家iPS細胞の培養や細胞製品の製造には、清浄度レベルが最も高いグレードAの製造設備が必要とされています。しかし、グレードAの設備は高価であり、多くの機材を設置する広さも必要となる点が課題です。

必要最低限の設備でありながらコンタミを起こさない完全閉鎖系で、かつ省スペースの製造設備で自家iPS細胞の培養が行えると、製造コストの抑制ができます。

iP-TEC🄬では、(1)と(2)の方法を独自の「閉鎖系培養容器システム」で実現し、myiPS🄬の目的達成を図ります。

4. iP-TEC🄬が考えるmyiPS🄬が描く再生医療の未来

iP-TEC🄬が開発している「閉鎖系培養容器システム」は大きな設備が不要で省スペースで、かつ原料となる患者様の血液からiPS細胞を経て目的の治療用細胞まで、1つのシステムで一気通貫で可能になることを目標にしています。

閉鎖系培養容器システムは、省スペースな培養装置と、コンタミレスでの細胞培養が可能な容器キット・簡易接合機材などで構成されます。
培養装置の大きさは家庭用オーブン程度となるため大きな設備の導入がいらず、患者様ごとに用意できる容器キットによりクリーンルームも不要です。簡易接合機材で培地交換も簡単に行えます。

治療用細胞を一気通貫で作ることができれば、イニシャルコストの障壁が緩和され、例えば1つの病院で再生医療を完結できると考えています。
閉鎖系培養容器システムはコスト削減にも効果的です。従来技術であれば一人あたり約4,000万円かかっていたiPS細胞作製が、閉鎖系培養容器システムであれば一人あたり約100万円にコスト削減できると考えられます。

iP-TEC🄬の閉鎖系培養容器システムが実現すれば、1つの病院内で再生医療を完結することが可能です。病院に来院した患者様から原料の細胞を採取し、病院内で自家iPS細胞を培養して、iPS細胞由来の細胞製品を患者様に提供する流れを作れます。

これを1枚のイラストに表現したものが以下です。

iP-TEC🄬の閉鎖系培養容器システム

令和4年度成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)制作イラスト

再生医療を社会に広く普及させるには、再生医療を産業化して、提供できる病院やクリニックを増やすことが欠かせません。iP-TEC🄬は「myiPS🄬の実現=再生医療の促進」と考えています。

5.myiPS🄬を推進する京都大学CiRAFとiP-TEC🄬の取り組み

京都大学CiRAFはmyiPS🄬を推進するために、高品質な細胞製造ができる技術と、大幅なコストダウンが可能なシステムの両立を目指しています。iPS細胞の再生医療研究を行う企業間の連携支援もしており、「myiPS🄬Circle」という多分野をまたぐ企業間の連携の場を立ち上げました。

iP-TEC🄬ブランドを展開する株式会社サンプラテックも、「myiPS🄬Circle」に参加する企業の1つです。

iP-TEC🄬では、細胞を凍結させず閉鎖系容器で生きたまま運ぶ技術と、閉鎖空間のまま培地交換が自動化できる基盤技術を確立しました。細胞の培養・輸送に適した技術が評価され、現在までに細胞の輸送用デバイスや培養容器として多くの実績を積んでいます。

2020年12月には、myiPS🄬のコストダウンに向けた京都大学CiRAFとの共同研究契約を締結し、研究をスタートしました。

閉鎖系培養容器システムの根幹となる簡易閉鎖型培養装置ユニットについては、すでにプロトタイプが開発済みです。簡易閉鎖型培養装置ユニットの課題抽出、および課題解決に向けた構想も進んでおり、基本特許に関しても3件が出願済みとなっています。

iP-TEC🄬は細胞の培養・輸送などにかかわる技術開発により、myiPS🄬の目的である自家iPS細胞を用いた再生医療のコストダウンに取り組んでいます。

参考:公益財団法人 京都大学iPS細胞研究財団「my iPS®Circle」

参考:iP-TEC®「細胞の“培養”“輸送”に理想の容器を」

iP-TEC🄬は2023年3⽉23⽇~25日に京都国際会議場で開催された再⽣医療学会にて、上記について発表しました。発表タイトルは「完全閉鎖空間内でのiPS細胞の樹⽴⽅法の検討」です。

詳細はサンプラテックの「iP-TEC」サイトからお問合せください。

iP-TECの公式サイトはこちら

まとめ

再生医療の研究は、世界の中でも日本がトップクラスで進んでいるものの産業化スピードは上がらず、安全性・体制の整備・製造コストにおいて課題を抱えています。

再生医療にかかる医療費を削減し、自家iPS細胞による再生医療を普及するためには、自家iPS細胞の培養と製造コストを大幅に削減することが必要です。具体的には、手技に頼らない培養手法を確立する、自家iPS細胞の培養や細胞製品の製造を安価に行えるシステムを導入することでmyiPS🄬の目的達成を図ります。

iP-TEC🄬が取り組む「閉鎖系培養容器システム」は省スペースで、患者様の血液からiPS細胞を経て治療用細胞が可能になると考えています。「完全閉鎖空間内でのiPS細胞の樹⽴⽅法の検討」の詳細を知りたい方は、「iP-TEC」サイトよりお問い合わせください。