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iPS細胞由来心筋細胞シートの展示をiP-TEC®️がサポート
心筋細胞シートは、ヒトiPS細胞から心臓の筋肉の細胞を作製し、シート状に培養したものを指します。心筋細胞シートは治療が困難な病気を治せる可能性が高く、すでに医師主導の治験も進んでおり近い将来には新たな治療法として大きな期待が寄せられています。
心筋細胞シートは、過去に展示会や国家イベントで展示されており、世界中で注目されている技術と言えます。
当記事では、心筋細胞シートの概要から注目される理由、現在の状況までを解説します。また、展示会におけるiP-TEC🄬のサポート内容についても紹介します。
1. 心筋細胞シートとは
「心筋細胞シート」は、iPS細胞から心臓の筋肉「心筋」の細胞を作製し、厚さ0.1ミリのシート状に培養したものです。
シート状でも心臓と同じように拍動していて、シートは直径数センチの大きさで、1回の移植に使う3枚には心筋細胞がおよそ1億個含まれています。手術では心筋細胞シートを3枚、全身に血液を送り出す役割を担う「左心室」のあたりに直接貼り付けて移植します。
大阪大学の澤芳樹特任教授らのグループは、心筋細胞の分化誘導に用いる試薬や製造方法を改良することで、ヒトに移植可能な安全性の高い心筋細胞を大量に作製し、シート化することに成功しました。
また、心筋細胞シートを重い心臓病の患者の心臓に直接貼り付けることで心臓の収縮する力を回復させる研究を進めており、治験を行って安全性や有効性を調べています。
1-1. なぜ注目されているのか
心筋細胞シートが注目されているかと言うと、治療が困難であった病気を再生医療技術で治せる可能性が高いと言われているためです。
例えば、心不全を抱えている患者さんは、虚血性心筋症になると最後は心臓移植や人工心臓になります。心臓移植はドナーが必要ですが、そもそもドナーが少ないことから、治療が進まないケースが多いという課題があります。
一方、心筋細胞シートは手術の際、患者さんの心臓に貼り付けるだけで回復を期待できます。心筋細胞シートは、患者さんを「待たせず治せる」点に注目されています。また、大幅に治療費を抑えられる点も期待されています。
1-2. 今どのような段階なのか
心筋細胞シートを用いた再生医療技術は、現在実用化に向けて着実に実績を重ねている段階にあります。心臓病を抱える患者さんの心臓に心筋細胞シートを貼り付け、心臓の機能回復を図るための治験はすでに実施されており、2023時点で8症例の患者さんが治験に参加しました。治験に参加した患者さんは手術後も順調に回復され、社会復帰を果たしています。
今後は治験で得られたデータをもとに審査が行われた後、心筋細胞シートを使用した治療方法が正式に承認される見込みです。2025年には商品化されている可能性が高いと考えられており、将来的には虚血性心筋症や心不全といった心疾患の治療法として有力な手法になることが期待されています。
2. 実は過去に学会併設展示会や国家イベントにおいて展示されていた
日本での心筋細胞シート技術の研究は2000年頃にスタートし、2003年には大阪大学大学院医学系研究科の研究グループが自己筋芽細胞を用いた細胞シートの開発に成功しました。2007年に京都大学の山中伸弥教授がヒトiPS細胞株を樹立したことを受け、2008年にiPS細胞による心筋再生医療の開発をスタートしています。
その後、iPS細胞由来の心筋シートを用いた心筋再生治療の開発・臨床研究が進み、現在では上述した通り治験を経て正式承認・実用化に向けた動きが活発化しています。「心筋細胞シート技術」「iPS細胞」は両者とも日本発の技術です。これらを組み合わせた日本の「ヒトiPS細胞由来心筋細胞シート」技術は、世界トップレベルであると言えるでしょう。
iPS細胞由来心筋細胞シートをはじめとする日本の再生医療研究は、国際的な関心が非常に高い分野でもあります。このような背景から、過去には日本が開催した国家イベントや学会併設展示会などに、培養・作製されたiPS由来心筋細胞シートが展示されることも数多くありました。
◆iPS細胞由来心筋細胞シートが展示されたイベント例
【大規模な国家イベント】
- G7伊勢志摩サミット(2016年)
- G20大阪サミット(2019年)
【学会併設展示会】
- ISSCR国際幹細胞学会(2017年;アメリカ・ボストン)
- Stem Cell Socity Singapore(2017年;シンガポール)
- 再生医療関連の展示会(日本)
これらの会期中には、実際の心筋細胞シートが拍動する様子を観察できるような展示がなされ、来場者の高い関心を得ました。2025年に開催予定の大阪万博でも、過去の展示と同様に拍動する心筋細胞シートの展示が計画されています。
3. 実はiP-TEC🄬が展示のサポートの一端を担った
展示会の来場者に拍動する様子を見てもらうために、どのように心筋細胞シートを作製し、展示することができたのでしょうか。
実は、澤芳樹特任教授のいる大阪大学で、拍動するiPS細胞由来心筋細胞シートを特殊な技術で作製し、シートを凍結させずに培養状態のまま展示会が行われる目的地まで輸送して、展示期間中も細胞シートが死なないように培養温度帯と必要なCO2を維持していたのです。
心筋細胞シートを凍結させずに輸送するため、インキュベータで輸送することが不可能な状況下で次のような課題がありました。
- 輸送中の温度管理やCO2供給
- 培養容器から培地を漏らさずに密閉状態で輸送
- 展示場にCO2インキュベータを持ち込めない状況下での温度維持とCO2維持
- 来場者に見てもらいやすいディスプレイ
これらの課題を解決したのがiP-TEC🄬です。
(1)は、36℃帯の潜熱蓄熱材と真空断熱材入り保温BOXを組み合わせ、庫内温度を長時間一定に維持できる仕様を提案しました。CO2については、三菱ガス化学社製のカルチャーパル🄬というCO2ガス発生剤と、細胞シートが入った培養容器を収納&密閉できる二次容器の組み合わせでCO2濃度5%維持できる仕様を提案しました。
- (2)は、ガス透過性と密閉性の両方を担保できるようにメディカルシリコーンの薄膜を培養容器にカバーし、押さえパーツとともに二次容器でパッキングすることにより高い密閉性を維持できる仕様を提案しました。
- (4)は、心筋細胞シートを観察しやすいように二次容器に密閉された状態で展示し、肉厚アクリルケース内に36℃仕様の潜熱蓄熱材を複数枚入れて温度を維持する方法を提案しました。
- ボストンで展示する際は大阪を出てからの輸送時間が長く丸1日かかり、また空輸になるため気圧や定温環境に晒される影響も危惧されましたが、漏洩はもちろん温度やCO2維持も問題なく、拍動を続けた状態で目的地に到着することができました。
- iP-TEC🄬はお客様のニーズに合わせて最適な細胞の輸送方法を柔軟に提案します。既存品で対応できない場合、オーダーメイドで1点から作製することも可能です。細胞の輸送や展示のご相談はぜひiP-TEC🄬にください。
まとめ
iPS細胞由来の心筋細胞シートは、「治療が困難な病気が再生医療技術で治る可能性が高い」「大幅に治療費を抑えられる」という点から注目されています。2023時点で8症例の患者さんが治験に参加しており、2025年には商品化されると予想されています。
iPS細胞由来の心筋細胞シートは学会併設展示会や国家イベントにおいて展示されています。展示会場の来場者に心筋細胞シートの様子を見てもらうにあたり、iP-TEC🄬が展示のサポートの一端を担いました。
iP-TEC🄬は、お客様のニーズに合わせた輸送方法を提案いたします。オーダーメイドにも対応していますので、細胞の輸送や展示の際にはぜひご相談ください。