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2023/04/11 再生医療

再生医療における細胞輸送の重要性が増す中、常温での輸送は可能なのか?

iPS細胞を代表とする幹細胞は、再生医療や創薬の領域において重要な役割を担っています。従来の細胞輸送では凍結輸送が一般的でしたが、デメリットもいくつかあるため、「iPS細胞を凍結せずに輸送したい」というニーズが以前よりありました。そこで現在注目されているのが常温輸送です。

当記事では、細胞輸送の方法について凍結輸送・常温輸送の基礎事項や、常温輸送における課題とその解決方法、実際の研究データについて紹介します。

1.細胞輸送の方法

再生医療や最先端医療、創薬の研究では、iPS細胞などの幹細胞やこれに由来する分化細胞が重要な役割を担っています。これらの研究にはさまざまな企業や大学などの研究機関・医療機関が関わっており、それぞれの施設の間で培養細胞を輸送する必要があります。

人工的に培養した細胞はデリケートであるため、これまでは凍結して輸送する方法が一般的でした。しかし、近年の再生医療産業化に向けた動きの活発化に伴い、細胞を凍結させずに輸送する「常温輸送」のニーズが高まりつつあります。このような需要の高まりを受けて、培養細胞の常温輸送を可能にする技術・デバイスの研究開発も進められています。

ここでは、培養細胞の輸送方法について、従来の方法である「凍結輸送」とニーズが高まりつつある「常温輸送」の2つの方法を解説します。それぞれの利点と課題を確認し、今後の輸送方法の参考にしてください。

1-1.凍結輸送について、その利点と課題

凍結輸送とは、培養細胞を凍結させた上で目的地まで輸送する方法を指します。培養細胞は温度変化や揺れなどの刺激で壊死や分化が進んでしまう可能性がありますが、凍結することによって安定的に運搬することが可能です。

ライフサイエンスや再生医療分野における凍結輸送の歴史は比較的長く、これまでに多くの実績や経験があります。輸送技術や輸送容器・デバイスも確立しているため、安心して運用できる方法です。凍結した状態での細胞保管も可能であるため、輸送後すぐに使用しない場合でも研究者や作業者による保存・保管が容易というメリットもあります。

一方で、凍結細胞を解凍して使用できる状態に戻す過程で、一部の細胞が損失してしまうという課題もあります。凍結と解凍の作業に時間がかかる上に高価な薬剤を必要とするケースも多いため、経済的・時間的・人的コストが必要となります。凍結できない細胞の場合、輸送自体が不可能であることもデメリットの1つです。

1-2.常温輸送について、その利点と課題

常温輸送とは、培養した細胞を凍結させずに培養温度帯を保ちながら目的地まで輸送する方法であり、「非凍結輸送」や「ライブ輸送」とも呼ばれています。これまでは困難であると言われていた方法ですが、容器やデバイス・輸送方法に関する研究開発が進み、実用化されるまでに至りました。再生医療関連の企業・研究機関の利用も年々増加しています。

培養細胞を常温輸送することの利点として、凍結・解凍の過程における細胞の損失が少ないことが挙げられます。また、凍結・解凍の業務を行う手間がないため、細胞が届き次第すぐに活用できる点もメリットの1つです。凍結輸送では扱えなかった凍結に適さない細胞も、状態を良好に保ったまま輸送が可能です。

常温輸送にはメリットも多い一方で、凍結輸送と比較すると輸送実績が少ないこともあり、解決すべき課題もいくつかあります。例えば、輸送の際の振動や容器からの液漏れなど、輸送時のリスクが高いことや、凍結輸送と比べて輸送中の温度維持が難しく、また、多量の培養液が必要となることなどがデメリットとして挙げられます。

また、輸送後すぐに使用しない場合は、適切に保管・管理できるよう対応を考えなければなりません。他にも、シート状の細胞や立体構造細胞などを輸送する際には、細心の注意が必要となります。

2.常温輸送の課題の解決方法

培養細胞の常温輸送にはいくつか課題がありますが、培養や輸送の際に使用する容器・デバイスによってその課題が解決できる部分もあります。例えば、実験器具・機器の開発を行う「サンプラテック」では、常温輸送に最適化した容器やデバイス「iP-TEC®」の開発を進めています。

【iP-TEC®シリーズ】

  • 一次容器
  • 二次容器
  • 三次容器
  • 蓄熱材/調温器
  • 灌流培養

「iP-TEC®」シリーズには、常温輸送に適したさまざまな製品があります。高い耐振動性と温度保持力を持つ容器や開放系容器でも液漏れしないデバイス、立体構造細胞の安定輸送が可能な容器を使用すれば、輸送時の管理がしやすくなるでしょう。そして、潜熱蓄熱材や真空断熱BOXなどの輸送資材も併用すると、より適切な温度管理が可能です。

参考:iP-TEC®「細胞の“培養”“輸送”に理想の容器を」

培養細胞の常温輸送の利便性向上に向けて、常温輸送に適した容器・デバイスの研究開発は現在も進行中です。細胞の常温輸送は、現在の凍結輸送と同様に細胞輸送の代表的な輸送方法となっていくでしょう。

3.実際に細胞を常温輸送すると、輸送前と輸送後でどうなるのか?

細胞の常温輸送に関する研究・取り組みの1つとして、輸送前と輸送後における細胞の状態を調べる試験も行われています。以下は、「iP-TEC®」の資材・設備を用いた常温輸送試験の一例です。

■「iP-TEC®」によるテスト輸送

【細胞試験条件】

輸送細胞(試料)iPS細胞由来神経細胞
輸送温度帯2条件
(1)36℃(細胞培養時の温度と同程度)
(2)24℃(医療現場などと同条件)
輸送時間48時間(京都市内と東京都内)を往復
輸送手段運送会社のトラックによる陸送・混載(積み替えを複数回実施)

【輸送時の環境】

輸送温度管理外気温の温度変動はあったが、36℃輸送、24℃輸送ともに設定した輸送温度を48時間維持できた。
振動輸送中の振動は5G(重力加速度の5倍)以内で安定していた。ただし、積み替え時に大きな振動を測定した。

【細胞試験の解析結果】

細胞の生存細胞数と細胞の生存率は輸送の有無で大きく変わらず、輸送温度の各条件で大きな差は見られなかった。
神経細胞の性質
※遺伝子の発現
培養0日目の未熟な神経細胞の遺伝子(TUJ1)発現量を1とし、「輸送なし」「36℃輸送」「24℃輸送」におけるTUJ1の発現量(相対値)を調べた。各条件で大きな差は見られなかった。
神経細胞の性質
※タンパク質の発現
細胞表面におけるTUJ1タンパク質の発現量を調べるため、各条件の細胞で免疫染色を行った。タンパク質の発現レベルにも大きな差は見られず、すべての条件で発現が確認された。

このように、「iP-TEC®」の容器・デバイスを使用した細胞の常温輸送試験では、輸送せずに培養した細胞と輸送後の細胞の状態・品質は大きく変わりませんでした。

まとめ

iP-TEC®は、ライブ輸送の実現を目的として、細胞輸送デバイスの開発からスタートしました。これからも、製品開発と輸送システムの構築・確立を進めながら、より上流の培養から研究者の皆様のサポートをしていければと考えています。

また、iP-TEC®では、ライブ輸送技術を使用した細胞輸送試験の受託サービスを2021年より開始しております。輸送試験でお困りの方や、第三者による試験データを取得したいと考える方は、ぜひお気軽にご相談ください。