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細胞培養装置とは?培養に使用する各装置や培養の基本工程を解説
細胞培養は、医療やバイオテクノロジーの分野で不可欠な技術となっています。体外で細胞を増殖・維持するためには、細胞に最適な環境を整えることが重要です。その際に使用されるのが、細胞培養装置です。
この記事では、細胞培養に欠かせないCO2インキュベーターや安全キャビネット、滅菌機器などの装置の役割や機能について初心者向けに解説します。細胞培養の基本工程についても触れているので、これから細胞培養を始める方や知識を深めたい方はぜひ参考にしてください。
1.細胞培養装置とは
細胞培養装置とは、温度や湿度、二酸化炭素濃度などを一定に保ち、体内環境に近い状態で細胞を培養する装置です。また、細胞が増える条件下では細菌も増えやすいため、コンタミネーションを起こさないように清浄な環境を保つ装置も欠かせません。
以下では、細胞培養に用いる装置について詳しく解説します。なお、紹介するのはあくまでも基本的な装置であり、実際の細胞培養の際はさらに多数の装置が用いられます。
1-1.CO2インキュベーター
CO2インキュベーターは、細胞を培養するために使用される装置で、温度や湿度、二酸化炭素濃度を一定に保つ役割があります。具体的な方法は以下の通りです。
温度 | 内槽外部の空気を加温するエアジャケット方式と、水で満たして加温するウォータージャケット方式があります。 |
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湿度 | 加湿バットに滅菌水を入れ、自然蒸発させることで湿度を90%以上に保ちます。 |
二酸化炭素濃度 | ガスボンベから装置内に入れて内部のファンによって攪拌し、CO2センサーでコントロールします。 |
1-2.アイソレータ
アイソレータは無菌グローブボックスとも言い、滅菌空間で培養や保存などの作業をするための装置です。おもに製薬やバイオテクノロジーなどの分野で使用されており、製品の品質や安全性の保持、作業者の安全確保を目的にしています。汚染リスクを軽減するために、作業者はグローブを介して操作を行います。
1-3.安全キャビネット
安全キャビネットはバイオハザード対策に使用される、病原体や遺伝子組み換え生物などを取り扱う際に適した装置です。内部は陰圧になっており、外部に汚染物質が漏れ出さない仕組みになっています。また、HEPAフィルターによって空気を浄化することで、感染性のある物質はキャビネット内にとどまるようになっています。
1-4.凍結保存装置
凍結保存装置は、生物試料や細胞を長期間保存するために欠かせない装置で、おもに以下の3種類に分類されます。
冷凍庫(ディープフリーザー) | 一般的な家庭用の冷凍庫と違い、生物試料や細胞を長時間保存する冷凍庫は、-60~-80度程度の低温環境を作れます。 |
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液体窒素凍結保存容器 | 液体窒素を用いて、細胞などの生体試料を超低温で保存する容器です。代謝活動や化学的反応を停止させることで、安定的に長期にわたって保存ができます。 |
プログラムフリーザー | コンピュータ制御により、試料を任意の冷却速度で入力した温度まで下げられる装置です。試料ごとに最適な温度管理ができ、温度感受性が高い胚細胞や幹細胞といった繊細な試料の保存に向いています。 |
1-5.滅菌機器
細胞培養環境を無菌の状態にするためにさまざまな滅菌機器が使われます。滅菌の方法として広く認知されているのは、熱を用いる手法です。
たとえば、乾熱滅菌では電気オーブンを使用して、熱に耐性があるものや蒸気に触れられないものを滅菌します。また、オートクレーブ滅菌では、オートクレーブと呼ばれる圧力釜構造をした機器で滅菌作業を行います。蒸気を使って滅菌するため、水に濡れても良い器具や溶液が対象です。
1-6.細胞観察装置
細胞観察装置は、細胞形態や細胞の挙動を観察するための装置です。主な機器には以下のような種類があります。
- 顕微鏡、蛍光顕微鏡
- プレートリーダー
- フローサイトメーター
近年、さまざまなメーカーから革新的な装置が登場しており、細胞培養に適した環境のまま使える顕微鏡や、細胞イメージアナライザーと呼ばれる情報解析ができる装置もあります。
2.そもそも細胞培養とは
細胞培養とは、動物や植物から細胞を取り出し、体外で人工的な環境を整えて細胞増殖を行う技術です。通常、栄養分を含んだ培養液の中に細胞を入れ、細胞の種類に応じた温度(ヒト由来細胞の場合は37度)で培養することで細胞が分裂増殖します。20世紀の初頭に細胞培養の技術が確立されて以来、医療やバイオテクノロジーなど多くの分野の発展に貢献してきました。
培養方法は大きく分けて以下の2種類の方法があります。
・浮遊培養
血液中を流れている細胞などの浮遊性細胞に適した方法で、細胞が培養液中を浮遊しながら培養されます。
・接着培養
骨や皮膚、体の臓器を構成する細胞などの接着性細胞に用いられる、人工基質上で単層に伸展、増殖させる培養法です。
細胞培養では細胞の性質に応じて体内環境に近い状態を再現し、最適な細胞培養システムが取られています。
2-1.細胞培養を行う目的
細胞培養を行う目的には次が挙げられます。
- 再生医療の研究開発
- 新薬の開発
- ワクチンをはじめとする生物学的化合物の大規模製造
- 細胞研究
- 生化学研究
など
培養技術はさまざまな分野で活用されており、正しい成果を得るためには信頼性や再現性の確立が重要視されています。しかし、細胞は環境変化に非常に敏感であるため、安定した環境下で培養することが必要です。そのため、温度や湿度、滅菌状態などを厳密に管理できる細胞培養装置の使用が不可欠であると言えます。
3.細胞培養の基本工程
近年では細胞培養に掛かるコストや手技に頼らない培養方法として自動細胞培養装置の実用化が始まっていますが、各工程を手作業で行う場合は、以下のような手順が一般的です。
培養工程の基本的な手順やポイントについて確認しましょう。
3-1.解凍
細胞バンクで細胞を入手した場合は解凍作業が必要です。液体窒素タンクや超低温フリーザーから保冷容器に移し、37度に設定した温水槽などで融解します。その後、培地を加えて凍結液を薄め、遠心分離によって凍結液を含む上澄みを除去します。
除去後は37度に温めた培地を添加し、ピペッティングで細胞を懸濁した後、細胞数や細胞濃度を細胞計測装置などで計測するのが基本的な流れです。
3-2.細胞の播種と観察
細胞播種では、まずは目的の細胞播種濃度にするために、計測した細胞数・細胞濃度をもとに培地を加えて希釈し細胞懸濁液を調整します。その後、新しい培養容器に決められた量の細胞懸濁液を移します。
細胞播種の作業後に行うのが細胞観察です。光学顕微鏡やその他の装置を用いて、以下の点に留意しながら観察します。
- 細胞の形態
- 細胞の分布
- 異物の有無
観察終了後、CO2インキュベーターに入れて培養へと進みます。
3-3.培地交換
細胞が増えていく過程で必要になる培養作業が培地交換です。細胞は培養液から栄養を取り入れて代謝するため、栄養分が減少し代謝産物が残ります。そのため、古い培養液を捨てて新しい培養液に交換する必要があります。
まずは、培地交換の前に細胞の培養状態を確認し、正常に培養が進んでいるかを観察しましょう。続いて、細胞が乾燥しないよう新しい培地を追加します。新しい培地は事前に37度に温め、温度変化を極力避けることが大切です。培地交換後はもう一度観察し、細胞の状態を記録してください。
なお、現在は培養装置が自動的・連続的に培地を交換し続ける灌流培養装置も開発されています。
3-4.継代
細胞が培養容器いっぱい(コンフルエント)になる前に新しい容器に移すことを継代と言います。容器中の細胞の培養濃度が高くなると、細胞の老化や細胞死を招く恐れがあるため、継代は非常に大切な工程です。
継代を行うタイミングは、容器に占める細胞の割合が70%から80%(サブコンフルエント)の状態が望ましいとされています。また、細胞の性質によって継代の手順が異なるため、取り扱う細胞に適した方法で継代を行うことが求められます。
・浮遊性細胞の継代
浮遊性細胞は希釈培養によって継代します。培養液を回収し、遠心後に上清を取り除いて、沈殿した部分を新しい培地に移します。続いて、細胞のサンプルを取り、染色して細胞数をカウントした後、適切な細胞密度になるよう濃度を調整して、新しい容器に入れてください。
・接着性細胞の継代
接着性細胞は容器に接着するので、通常は上清を取り除いて洗浄した後、トリプシンなどの細胞分解酵素を用いて細胞を剥離させます。細胞分解酵素を添加後、所定の時間が経ったら培養容器の側面をそっと指先で叩いて細胞を剥離させ、酵素反応停止液を使うか希釈するなどの方法で酵素の活性を弱めます。その後、遠心して細胞分解酵素が含まれる上清を取り除き、新しい培地に移して細胞数をカウントし、濃度を調整した上で新しい容器に入れてください。
まとめ
CO2インキュベーターやアイソレータなどの細胞培養装置は、再生医療や新薬開発など、多岐にわたる分野での研究・開発に用いられます。
また現在は、細胞培養に掛かるコストを削減し、手技に頼らない培養方法として自動細胞培養装置の実用化も進んでいます。特に手技による培地交換が不要になる灌流培養装置は、自動培養装置の中でも利便性が高く、iPS細胞の培養などにも用いられる装置です。
iP-TEC🄬では、未来のオーダーメイド型再生医療など小スケールの細胞培養でも効率化を図れるように閉鎖系灌流培養システムの開発にも力を入れています。細胞培養のコストダウンや品質の安定化にもつながるため、興味を持たれた方はぜひ一度お問い合わせください。